家政婦ではない、橋田という存在 『探偵が早すぎる (下)』 レビュー
あらすじ 高校生の一華は家政婦の橋田と二人暮らし、父・瑛の死に伴って、5兆円という莫大な資産を相続する。
本家の大陀羅(だいだら)一族はその遺産を狙い、一華を事故死に見せかけるため、いろいろなトリックを用い、殺害しようと試みる。
引用—Wikipedia
本作品は2017年に講談社から出版されたライトノベル。著者は井上真偽。
インタールード
「それに……もし私に何かあっても、きっと橋田が何とかしてくれるんでしょう?」
引用—探偵が早すぎる (下)14頁
瑛の四十九日の法要当日の朝、一華は橋田からの謝罪を受ける。橋田は法要に出席することで、一華の身が危険にさらされることを負い目に感じていた。一華はおとり役になることは覚悟の上であり、上記のセリフを言う。一華の橋田への好意、信頼が明らかになっているシーンだ。そして、瑛の弔い合戦の幕が開ける。
法要は、寺での焼香、墓での納骨、ホテルでの会食の三つの工程に分枯れている。周りに人がいる状態で、自然な殺害を成し遂げる手法はあるのか、また、その手法を使われる前に探偵は阻止することが可能なのか、本編への期待感は高まる。
下巻のキーマン、大陀羅天后
「天后だけは死なないんだよ、龍精」
引用—探偵が早すぎる (下)263頁
上巻では一華の殺害につながる行動を起こしていなかった、大陀羅家末子の天后が、下巻のストーリーのカギを握る存在となる。彼女は、大陀羅一族の間でも評価はよろしくない。大陀羅家三男の龍精曰はく、彼女は異常であり、理屈の通じない相手である。5兆円を得るためだけに血のつながった人間を殺すことをいとわない一族においてさえも異端である天后の存在を中心に、下巻のストーリーは展開していく。
天后の一華殺害のためのトリックは常軌を逸したものであった。そのことを示唆しているのが上記の文章である。ほかの人物の視点の文章にはあるが、天后視点の文章には欠けているものがある。その点に注目することで、トリックを明かすことができる。この本を読む際にはぜひそこに注目してほしい。
一華と橋田の関係性の変化
「一華は知らない——こんな橋田は知らない。」
引用—探偵が早すぎる (下)275頁
単なる家政婦ではない橋田の存在。上巻で探偵、千曲川光と邂逅した際に一華が覚えた違和感。下巻ではそれらの伏線が回収される。一華が知らなかった橋田の一面は、一華に恐怖を覚えさせるものであった。一華はそれを受け入れることができるのか。橋田と一華の関係の変化が描かれる。
総評
上巻で確立された事件を未然に防ぐという展開はそのままに、一華と橋田の関係性について掘り下げていた。単なる家政婦ではない橋田という存在がこの作品を面白くしていると感じた。だが一方で、事件が未然に防がれてしまうことが分かっているので、推理小説にしては緊迫感が不足しているように感じた
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