瑞樹の読書ログ

ブログ初心者の主が、気ままに読書記録を綴るだけ。

信頼と主観の物語 『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 2時間目』 ※前巻までのネタバレあり

 

f:id:syohyou_miduki:20210219205454j:plain

画像引用元:版元ドットコム

 

本作品は2018年にKADOKAWAから出版されたライトノベル。著者はさがら総

 

あらすじ

 

この話は、くだらない塾講師の、そんなくだらないひと夏の話だ。

引用:教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 2時間目 34頁

 

今巻の舞台は、夏休みに角川調布撮影所で行われる、TAXの集中講習合宿。TAX府中校の廃校が決まったため、調布校の生徒に加えて、府中校の生徒、講師も参加している。前巻で問題になっていた調布校の統廃合の問題は、府中校の廃校によって一応の解決を迎えた。競合している邁進ゼミナールが調布に出校したために、体面上調布校を廃校にできなくなったからだ。府中校の講師、生徒、保護者の新しいキャラクターが増え、物語は新たな展開を迎える。

 

 

新ヒロイン、鶉野冬燕(うずらのとえ)

 

「頼んでもないのに、なんで助けたの。私なんかなんの価値もないのに。天使になるのが関の山のゴミクズなのに。」

引用:教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 2時間目 72頁

 

鶉野冬燕は、府中校の生徒、鶉野桃夏の姉である。妹が府中校大規模カンニングの主犯だと疑われていることを知り、保護者として合宿に参観している。講師に対する不信感が高い。北欧にルーツを持つ、日本人離れした外見をしている。

 

彼女の名前が書かれたノートが天神の手に渡る。中身はすさまじいポエムノートであった。ノートを見られた彼女は屋根に上り、飛び降り自殺をしようとする。それを止めた天神に言ったのが上記のセリフである。彼女は根っからのダウナー気質で、何度も自殺を試みる。また、年下とのコミュニケーションを苦手としている節もある。

 

彼女の言い分は、妹が府中校の講師には根拠なくカンニングの主犯扱いされていて、府中校や調布校の生徒たちは妹をいじめているとするものである。だが、彼女の言い分にそぐわないような事実を天神は見つける。語られているものが真実だとは限らない、この間のストーリーを象徴しているものである。

 

 

天神の作家仲間

 

 

 合宿の合間、天神はファミレスで星花へのレッスンを行う。星花は誕生日プレゼントとして、本物の作家と会いたいと要求する。天神はそれを了承し、あわよくば星花の個人指導を押し付けようとして、同期で同い年の作家二人と星花を引き合わせる。

 

一人目は『墓掘り』。OVA化された作品、『墓掘り風雲録』が由来のあだ名だ。落とした女は数知れず。自分の担当編集にすら手を出している。天神の塾講師と作家の二束の草鞋を快く思っていない。

 

二人目は『社長』。実家がレストランチェーンを経営していることが由来のあだ名だ。誰にでも優しく、万人に好かれる人物だ。一方で、作家という仕事にはプライドを持っている。売れるかどうかは別として、おもしろくないものしか書けないのならば作家をやめたほうがいい、という信念を持っている。

 

「やるべきことは全部こなしてくださると、信じています。」

引用:教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 2時間目 170頁

 

彼らを紹介された後も、星花は天神との個人レッスンを継続しようとする。本物の作家から習ったほうがいいし、自分も仕事で忙しいという天神に対して、彼女は上記のセリフを発する。当たり前のように天神を信頼している、星花の立ち位置があらわれているセリフだ。信頼、それがこの巻のもう一つのキーとなる。

 

 

天神の悩み

 

人を信じるのも、信じられるのも、苦手なんだよ。

引用:教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 2時間目 79頁

 

 この巻では、天神の内面について掘り下げられる。塾講師と作家の二足の草鞋を履いている天神の、双方の仕事に共通している問題点だ。それは、自分の才能、実力を信じることができないという点だ。作家としては墓掘りに、塾講師としてはロジカルマンに、その問題点を気づかされる。

 

墓掘りは天神が惰性で塾講師をやっていると批判する。目の前のことをこなしているだけでは、なけなしの才能が尽きてしまうと。ロジカルマンは、指導において生徒の気持ちは無視し、一人一人に時間をかけるのではなく、見込みのある生徒のみに集中するべきだという。

 

天神の仕事への向き合い方は、根本的に自分を信頼できていないことからきているように感じられる。作家一本で生きていく自信がないから、塾講師をやめることができない。自分の指導で確実に結果を出せると思えないから、目の前の困っている生徒を助けることで目をそらす。信じることを苦手としている天神の在り方が問題となっている。

 

 総評

 

新しいヒロインの登場と、天神の作家、塾講師としての在り方の問題。この二つが取り上げられている感だった。星花と冬燕、二人のヒロインの関係性や、天神は何を選択するのか。今後の巻の展開に期待を持てる。