瑞樹の読書ログ

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才能と情熱の物語 『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 1時間目』

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画像引用元:版元ドットコム

 

本作品は2018年にKADOKAWAから出版されたライトノベル。著者はさがら総

 

 

あらすじ

 

この話は、そんなくだらない塾講師の。

どこにでもある、くだらない人生の話だ。

引用:教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 1時間目 25頁

 

物語の主人公である天神は、塾講師兼ライトノベル作家として活動している。彼は両方の仕事の熱意を失っている。とある事件をきっかけに、彼は生徒を志望校に合格させるために嫌われようとしなくなった。新人賞を受賞したデビュー作が売れなかったことをきっかけに、彼は流行に便乗した、売れる作品しか書かなくなった。本業と副業、双方に思い入れをなくした彼は、求められていることを求められたとおりにこなすことしかしなくなった。

 

一人の少女がライトノベルの指導をしてほしいと彼を脅迫する。彼女の名前は筒隠星花。天神が勤めている塾の生徒だが、彼が作家であることは知らない。彼女は天神のデビュー作を好きで、そんな本を書きたいのだという。彼女との出会いをきっかけとして、天神は二つの仕事への情熱を取り戻していく。

 

 

天神の才能

 

塾講師と作家、その両方の才能が天神にはある。塾講師としての彼は、生徒に好かれることに優れている。彼はそれを塾講師としての前提条件だと考えている。だが、それは誰にでもできることではない。彼に好意を抱いている生徒は、ほかの講師からは近寄りがたい存在と認識されている。

 

彼のデビュー作は、確かに売れなかった。だが、初代担当や星花など、彼の物語に心を動かされた人が存在している。彼に作家の才能があることは疑う余地はない。その才能によって彼は仕事を辞めることができない。超一流になることができない程度の才能が彼を縛っている。塾講師と作家。どちらでもある彼はどちらにもなりきれずに苦しんでいる。

 

 

塾講師、天神の変化

 

 どんなにろくでなしであっても、どんなに冷め切っていても。

それでも——まだ俺は、塾講師でありたいらしい。

引用:教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 1時間目 145頁

 

 求められていることを求められたとおりに、塾講師としての天神のスタイルだ。そんな彼にも塾講師としての情熱が残っていることが明らかになる。ある日、彼は勤めている塾の室長にある仕事を頼まれる。それは非常勤講師の管理が目的のものであった。その仕事をするためには室長に代わりに授業をしてもらう必要があった。彼は気が乗らず、中途半端な返事でお茶を濁す。彼の信念からすれば、子供相手の授業でも非常勤講師の管理でも変わらないはずなのにだ。その後に上記のの文章が書かれる。彼の中には、まだ情熱が残っていたのだ。

 

また、その後の彼の授業の内容も興味深い。物語の登場人物が無意識に嘘をつくことがあるというものだ。求められているものを、求められたとおりにという彼自身の発言と、彼自身の行動の矛盾とリンクした内容になっている。ストーリーの展開を授業内容を通して明示する。この作品特有で、優れている点だ。

 

 

総評

 

 塾講師と作家。二つの職業をかけ持つ主人公が情熱を取り戻す姿が描かれた物語だ。この巻では主に塾講師としての物語が中心となっていたが、続刊では小説家としての天神の情熱が描かれるのだろうか。兼業作家である彼は、作家の世界でも特殊な存在なはずだ。今後どのように描かれるのかに期待したい。